【魅惑の大花火　～煙火師たちの至高の芸術～】

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魅惑の大花火～煙火師たちの至高の芸術～

魅惑の大花火　～煙火師たちの至高の芸術～

2018年6月記事公開
（敬称略）

　花火の魔力。明滅する光、衝撃波とゆらぎ。
　火の芸術を楽しむうちに、四半世紀を超えました。各地の会場にて、すばらしい体験を提供くださった関係者の皆様にこころより感謝いたします。伝統的な日本の花火大会には、煙火技術の進歩とともに、誰もが惹き込まれるエンターテインメントとしての進化があったと感じています。この冊子では、各煙火師の芸術性に目を向けて、およそ１０年間の記録からセレクトしてみました。
　誰もが等しく楽しめる花火。自然環境への畏れをも感じさせる花火。今あらためて、「復興祈願」に向かう行事として大きなうねりを感じます。激甚な自然災害等に遭遇するたび、そして地域再生への契機として、夜空に花火を捧げる風習が大切にされています。地域社会の人々が願いと祈りをこめて揚げる花火は、娯楽や慰安を超えて地域を元気にする源（みなもと）として、かけがえのない文化であることを示し続けています。

　さて、ほんの一部ですが、敬愛する煙火師の皆様方それぞれの見どころをいくつか挙げてみましょう（順不同）。
　フェニックスや正三尺玉、大型花火の数々。長岡の花火を牽引する「嘉瀬煙火工業」をはじめ、新潟の方々の取り組みは、長岡の誇りと魂を体感させてくれ、年ごとに耀きを増しています。
　茨城の「野村花火工業」は、究極の五重芯変化菊、色彩豊かにくるくると時間差で発光させる割物など、誰もが驚嘆する玉を開発されています。四重芯変化菊対打ちに始まる「天地人花火」「故郷はひとつ」、各地でのワイドスターマインなど、音楽との緻密な融合に魅了されます。「山﨑煙火製造所」は、きっちりと安定した多重芯等にいつも感動します。堂々とした五重芯花火はフォトジェニックです。「筑北火工堀米煙火店」の割物の開発後に見る、ひと筋の赤い星「残光」の、寂寥感に満ちた味わいが印象的です。
　長野県の「紅屋青木煙火店」は、長野えびす講煙火大会等で「ミュージックスターマイン」を提示。前衛的かつ完成度の高いパフォーマンス、いわば未来の花火を見せてくれます。いつも良い意味で期待を裏切ってくれる名匠です。　山梨県勢の煙火師は魔術的です。「マルゴー」は、多彩でエモーショナルな光の魔術師。2007年の土浦でのスターマイン「花」を見た、当時の長岡まつり実行委員長が翌年の長岡へ招聘したことは画期的でした。マルゴーの「天地人花火」が長岡の花火を爆発的に変容させるきっかけとなりました。「齋木煙火本店」は、虹の色どりを主軸にして、幻想的な色づかいで個性を発揮しています。「山内煙火店」は、光の抑揚を操り、見る者の心をわしづかみにする名人だと思います。そして深い橙色の和火が美しい。
　秋田県大曲の花火主催にかかわる地元４社は、楽しく最高のものを魅せようと、協調しあう仲の良さが大会提供花火から感じられます。型物の名人「北日本花火興業」、五重芯の名人「小松煙火工業」、多重芯を極める「響屋大曲煙火（大曲花火化学工業）」、千輪華を極める「和火屋」。
　長野「篠原煙火店」は、和火を駆使した_「幽玄夜噺し」など、いぶし銀のような渋さを見せてくれる名人です。愛知「磯谷煙火店」は光の宝石の数々を見せてくれます。新潟「片貝煙火工業」の鮮烈な色彩は脳を直撃します。四重芯名人の群馬「菊屋小幡花火店」の魅力的な造形には、歓声がよく似合います。長野「伊那火工堀内煙火店」、愛知「加藤煙火」や福岡「高田花火工業」ほか、今回取り上げさせていただいた煙火師の皆様それぞれ、斬新な表現でわくわくさせてくれます。

　巨匠らの花火には、火のかたち、光跡の印象と消え口、そしてふと現われる静寂、一連の陰影の表現と花火そのもののサウンドには個性があり、光による交響楽と思える時があります。
　煙火師たちの芸術に酔いしれるうち、とくに花火の消え口の美しさと、音に惹かれてきました。歳を重ねてきたせいか、花火は、詫び寂びの芸術として眺めるようになってきました。やっぱり嘉瀬さんの白菊はいいなあっ！という感じです。　
花火撮影術については、写真家・小野里公成氏の教えをはじめ、花火を楽しむ多くの先達たちのアドバイスを受けて取り組んできました。各地の花火会場の内外でお世話になっておりますこと、御礼申し上げます。
　

2018年春）